一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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広報誌『O-BAY』
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2014年度ベイエリア講演会再生医療関連のニーズと周辺産業市場への期待
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[日時] 2014年8月11日(月)14:00~15:15
[場所] 三菱UFJリサーチ&コンサルティング セミナー室

 講師:京都大学再生医科学研究所教授 田畑 泰彦 氏

講演会の様子
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 私は、工学部、医学部、薬学部の3つの学位をもっているが、再生医療は全ての境界領域で、全てを知らなければならないからである。工学部で学ぶと工学部の思考になり、医学部で学ぶと医学部の思考になる。そして、考え方が違っていると、お互いに意思の疎通ができない。ものづくりは工学部で行われるため、私は工学部で高分子化学を専攻し、体内で分解する材料を使って、人工血管などをつくった。ところが、やはり病気のことを知らなければならないため、医学部に行き、再生医療を研究した。次の薬学部では、ドラッグデリバリーシステム を研究した。

ドラッグデリバリーシステムとは、体の中でも安全な材料でナノ粒子のようなものをつくって、そこに薬を乗せ、体内で粒子が誘導ミサイルのように病気の細胞に届くシステムである。
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●再生医療とは
 再生医療には、細胞を使うものと、工場でつくることができる材料を使うものの2種類があり、また、治療と研究という2つの分野がある。

 再生医療において、「細胞を使う」とは、iPS細胞やES細胞、幹細胞を用いることであり、また、「工場でつくることができる材料を使う」とは、薬に使う材料、あるいは人工臓器のように体の中で使う医療材料を用いることである。

 再生医療とは、体に備わっている自然治癒力を促して治療することである。方法としては2つある。例えば、体の自然治癒力の基になっている細胞の良いものを採取し、外で増やして体内に入れる方法である。多くの方は細胞移植イコール再生医療だと思っているが、もう一つ大きな分野がある。それは、病気になった時に、体の中にいる細胞に餌を与え、あるいは細胞の家のようなものを使って細胞を住みよくして、自分の体の中にある細胞を元気づけるという方法である。再生する機能がきちんと働いていれば、体が治ってくる。その時にどのような細胞が働けばいいのかがわかってきたため、再生治療が現実的になってきた。

 「治療」と「研究」は分けて考えなければならない。治療と研究の違いは、治療は患者に触れたり、患者の体の中に入れたりするので、用いる材料、技術は厚生労働省の許可が必要となり、その開発には時間も費用もかかる。新薬なら市場に出すまで18年間、200億円かかる。薬に限らず、プラスチック材料を使った治療の許認可も、時間と費用がかかる。一方、研究は体の外でできるため、細胞に悪い影響を与えることがなければ、どんな材料技術でも用いることができ、その研究開発には厚生労働省の許可が必要でない場合もある。
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●再生医療における産業市場
 体の中で用いる、あるいは体の成分である細胞やタンパク質、核酸、あるいは細菌、ウイルス、治療に使う医療機器や、ドラッグデリバリーシステムのカプセル、血液を検査する試薬、細胞と触れる培養機器のような理化学機器や器具、理学療法の器具、ギプス、化粧品、ヘルスケア製品など、人の体に触れるものは全て生体材料(バイオマテリアル)であり、今後、このような工学とライフサイエンスの間の分野に参入するには、バイオマテリアルの勉強をしなければならない。

 現在、治療でビジネスになっているのは、細胞のシートをつくるシート工学で、目の角膜や軟骨についての取組は、あまり効果が出ていない。なぜなら、元気な細胞は能力が高いが、その細胞が元気で居続けられる環境が整っていないからだ。また、試験管の中で能力が高いものを体内に持ってきても、必ずしもうまくいかないというのが現状である。

 加齢性黄斑変性症など、いろいろな病気にiPS細胞を活用しようという動きがある。しかし、患者から皮膚の細胞を採って、iPS細胞に戻して、そこから網膜色素上皮細胞にするためには、普通は7か月で3,000万円かかる。また、細胞の培養液に使われるヒト由来のアルブミンも非常に高価である。そこでかかる時間と費用をいかに抑えるかを考えなければならない。

 細胞は死んでいくものであり、細胞の歩留まりを良くするには、方法が2つある。1つは、細胞の家や餌などの環境を整えること、つまり、分解吸収性のスポンジなどでつくった細胞の家に、細胞の餌となる物質を与えることである。これを必要な場所に運ぶのがドラッグデリバリーシステムである。どの細胞にどの餌を与えればよいということがわかり、細胞の家や餌を工場でつくることができれば、ビジネスはいくらでも広がっていく。

 もう1つは細胞同士をつなぐことであり、そこから出てきたのが、細胞シート工学である。細胞シートが全て臓器に置き換わるのではなく、細胞シートをつくると、細胞が元気になり、死ななくなるため、病気になった時には「助けてシグナル」をたくさん出して、骨髄から細胞を呼び寄せるようになる。例えば、心筋の細胞シートを3枚重ねると、酸素が供給されず中間細胞が死んでいくため、それをうまく解決する方法として、将来血管になる血管の細胞シートをつくって、それと心筋の細胞シートとを重ねる。そうすると、シートとシートの間に血管ができるので非常によい。また、シートとシートの間の風通しをよくするために、分解吸収性の粒を作って、シートの間に挟むだけで、細胞が死ななくなる。この粒は工場でつくることができ、それが医療までつながる。

 また、細胞を体の外で元気づけることができれば、もっと詳しく細胞の状態を把握することができ、研究が進み、創薬につながる。iPS細胞をプラスチックのシャーレで研究しても限界があり、より良い研究を行うためには、体の外で体に近い環境をつくることが必要である。細胞は接着するものによって、その細胞の増殖や分化に大きく影響する。これまでは、栄養液の性質を変えることによって細胞の性質を変えていたが、プラスチック、つまり細胞が接着している方の材料の表面の状態や硬さを変えることによって、細胞の増殖や分化を制御することできる。iPS細胞は接着しないため、基材は絶対に必要になる。

 また、体は三次元なので、これからの再生研究では「三次元化」がキーワードになる。体の基本単位は細胞だが、機能の基本単位は細胞の塊、つまり三次元の塊である。まだ世の中に塊の研究をしている人や創薬をやっている人はほとんどいないので、先行して取り組むべきである。ただし、細胞は塊にすると塊の内部の細胞が死んでしまうので、先ほどシートの間に小さな粒を入れて細胞の死滅を抑制したのと同じように、接着しないシャーレをつくることが必要になる。これまでの基材は細胞を接着するように設計してきたが、これからは、細胞が接着しないような基材も必要になる。そのためには、ナノテクノロジーの技術が役立つ。
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