一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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広報誌『O-BAY』
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寄稿 変貌する大阪湾ベイエリア~地域イノベーション・システム構築への挑戦~


加藤 恵正加藤 恵正 かとう よしまさ
兵庫県立大学経済学部教授

1976年、慶応義塾大学経済学部経済学科卒業後、
神戸商科大学大学院経済学研究科博士課程修了。
2004年4月から2年間、兵庫県立大学経済経営研究所
教授・所長を務める。 転換する都市・地域経済の諸相について、理論・政策・実証の各側面から国際比較を軸に研究を行う。


大阪湾ベイエリアの現在
 

 2007年12月末、松下電器産業が兵庫県姫路市に総投資額3,000億円規模の薄型TVパネルの生産工場建設を予定していると報じられた。松下電器産業は既に尼崎市にプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)の生産拠点の拡充(総投資額5,550億円)を決定しており、姫路での立地が実現すると、堺臨海部で2009年度中に稼働するシャープの液晶工場、大阪市住之江区の旭硝子PDP工場などを加え、大阪湾ベイエリアは世界最大の薄型TVパネル生産拠点となる。こうした巨大事業所の立地は、関連工場を周辺に誘引し、地域のイメージアップによる誘発効果も大きいと見られる。実際、堺のシャープ工場周辺には14社5,000人の雇用が見込まれている。また、AMBプロパティ、プロロジスなど外資不動産ファンドを中心とした大規模物流施設の立地、既往事業所群の新規投資の拡大など、大阪湾ベイエリアの変化は加速している。関西企業の2008年度設備投資計画は前年比20.6%増が予測され、これは全国最大の伸び率となっている(日本政策投資銀行)。
  21世紀に入って、大阪湾ベイエリアの動きは加速しているようだ。2001年、大阪湾ベイエリア開発推進機構は、バブル崩壊後ロック・イン※した地域経済再生に向けた提案を行っている(『大阪湾ベイエリア開発整備へのアクションプラン起動に向けて』)。その当時の整備課題であったベイエリア全体を覆う遊休・未利用地の存在や虫食い状の土地利用に対し、社会実験の導入や整備促進に向けた仕組みづくりを提示している。ここで指摘された地域整備手法のパラダイム転換の必要性は、ベイエリアにおいて尼崎の森構想やエコタウン計画など実験的・野心的な試みのなかで具体的な形で実施されている。同時期に、政府は2002年からの工場立地制限三法の廃止・緩和、構造改革特区・都市再生・地域再生など一連の規制緩和を矢継ぎばやに実施する。中国を中心とする近隣アジア諸国の急激な興隆、世界的な生産・
技術システム再編下での工場の日本回帰などの潮流は、こうした仕組み革新を受けて大阪湾ベイエリアはその変貌を開始したのである。
  もっとも、こうしたRustbelt(荒廃した工業地帯)の再生は、大阪湾ベイエリアだけに限ったことではない。 1995年、英国ウェールズ大学P.Cookは『ラストベルトの再生(The Rise of the Rustbelt)』を著し、衰退が顕在化した世界の工業地域において、新たなクラスターの勃興とこれにともなう地域イノベーションが地域再生の萌芽を形成しつつあることを示したのである。その後のCookらによる一連のRustbelt再生に関わる研究は、先発工業国共通の悩みであったこうした地域の再生を検討するうえで大きな影響を与えた。とりわけ、地域に死蔵されている固有資源を再評価・再編成することをベースとする地域イノベーション・システムに関わる議論は、地域の自立メカニズムを刺激する再生アプローチとして現時点においても共有される重要な論点なのである。

※ ロック・イン
ここでは「負のロック・イン」を指す。かつての成功体験や既得権益への固執によって、
制度や仕組みの抜本的改革が遅れ地域経済の硬直化・ダイナミズムの消失が顕在化している状況。

 
大阪湾ベイエリア再生のためのコーディネーション・アプローチ
 
 大阪湾ベイエリアは、関西経済圏域の「核」である。今後、関西が自立型圏域として、また国民経済を牽引するエンジンとしての役割を果たすためには「関西地域イノベーション・システム」が必要である。その際、大阪湾ベイエリアが果たす役割はきわめて大きい。
  地域イノベーション・システムの核心は、地域固有資源の再編成にあることは既に述べた。
その意味で、地域経済の再生は、硬直化した関係性の組み換えや新たな仕組み創出にあるといって過言ではない。それは、地域再生のためのコーディネーション・アプローチといってもよいだろう。実際には、かかるアプローチは大阪湾ベイエリアを取り巻く様々な取り組みにおいて、萌芽的ながら既に看取されるところでもある。次世代の大阪湾ベイエリア形成に向け、こうした視点から次の3点を指摘することにしたい。
  第一は、地域内部における戦略的なコーディネーションの必要性である。2010年、神戸ポートアイランドに世界最高速スーパーコンピューターの供用が開始される。
シュミレーション・計算機科学分野での最先端研究を可能にするこうした施設の設置に対し、地元神戸大学、兵庫県立大学、甲南大学はこれを活用した研究や研究者養成に名乗りをあげているが、神戸大学は本年初頭から九州大学等と連携した大学院教育プログラムをスタートさせるという。神戸大学はポートアイランドで集積する先端医療研究を支える技術者養成のための医工連携大学院課程をも設置するなど、これまで遊離しがちであった教育・人材養成と先端領域産業を積極的に結びつけようとしているようだ。こうした視点は、政府の企業立地政策にもあらわれている。2007年、経済産業省は企業立地促進法をスタートさせた。地元自治体と経済界による協議会を設置するなど、地域のイニシアチブを重視・支援する仕組みとして登場したが、本制度のもうひとつの顔は国土交通省、厚生労働省、文部科学省などとの一体的な取り組みを強調していることであろう。縦割りの非効率からの脱却は、地域経済再生の重要なポイントといってよい。
  第二に、地域間のコーディネーションを指摘しておきたい。現在、都市再生に位置づけられている淀川左岸線延伸部や大阪湾岸道路など、シームレスな移動が重要なベイエリアのインフラが未着工となっており早期の完成が求められる。ベイエリアの競争力強化にあたって、こうした産業基盤整備は今後とも不可避の課題である。大阪湾ベイエリアは多くの自治体によって構成されている。これが、ある意味で強みであり、一方で弱点でもあったことは否めない。
一自治体では対応が困難な大規模産業基盤の場合、今後、自治体間の本格的な連携も必要である。たとえば、PFIなどで、長期契約による自治体間取引契約による仕組みなども既に提案されている。地方分権への本格移行は、地域固有の課題に呼応する公共部門間同士の実質的な連携をも可能にする素地を提供していると考えてよいだろう。
  第三は、政府と地方(自治体)間のコーディネーションである。2007年、政府は地方再生を総合的に推進するための地域活性化統合本部を設置した。地方再生戦略として策定された政府の方針は、地域ブロックごとに窓口を一元化し、「あらかじめメニューを定めず、地域の自由な取り組みをそのまま受け止め国が直接支援する・・・」(総務省)ものである。
政府はこの取り組みに先行して、「頑張る地方応援プログラム」を発足させているが、いずれもわが国で稼動し始めた競争型ブロック・グラント方式※といってよいだろう。この他、国土交通省による都市再生整備計画に基づく「まちづくり交付金」なども従来の縦割り型支援と比べると地域の側の自由裁量の度合いを大きくしている。こうした政府による試みの一方、地方自治体においては既に先駆的かつ積極的な取り組み実績がある。兵庫県による「まちのにぎわいづくり一括助成」事業(2006・2007年実施)は、1件最大1,000万円の規模での公募提案方式である。阪神・淡路大震災復興フォローアップ委員会における提言に基づいて実施されたこのコンペは、地域の個性に基づく「地域再生」を企図したもので、1件あたりの規模の大きさもさることながら、「一括助成」型地域支援を地域団体やNPO等を主体とする地域の側からの提案に基づいて実施したことに意義がある。
現在、軌道に乗りつつあるこうした方式を、より充実し政策パッケージ方式との連携をも行いながら、都市・地域再生における新たな仕組みの本格導入を加速しなければならない。多様な政策課題が重層化しているベイエリア再生において、地域イニシアチブを重視するブロック・グラント方式は大きな役割を果たす可能性を有している。

※ ブロック・グラント方式
1990年代の英国でのSRB(Single Regeneration Budget) が有名(その後、
SP(Single Pot へと進化))。各省庁の都市政策資金を一本化し、地域ニーズに
呼応した包括支援を可能にした。縦割り施策の非効率から脱却し、支援策をバンド
リングすることによる効率化にも期待できる。局地的な特性を有する再生課題に対処
するためのこうしたアプローチは、問題への効率的かつ的確な対応を可能とし、
さらに個別政策展開では予想できない相乗効果をもたらす可能性がある。
 
大阪湾ベイエリア再生特区の可能性
 
 関西経済の競争力強化は、中核的役割を担う大阪湾ベイエリア再生が不可欠である。その課題は、地域イノベーション・システムを自立的に機動するメカニズムの創出にある。さきに、3つのコーディネーション・アプローチを指摘したが、これらをより深化させていくために、様々な施策をパッケージ化し、統合的にマネジメントすることが可能な枠組みが必要である。ここでは大阪湾ベイエリア再生特区を提案したい。たとえば、それは湾岸域に位置する府県市町によって構成される広域特区といったイメージであろう。ベイエリア型BID(Business provement District)などの創設によって、独自の財政基盤を確保するといったことも可能となろう。今後、Rustbelt再生には新たな環境創造の視点も不可避である。居住空間としての役割も重要な計画課題である。地域と産業の新たな関係形成を核に、地域再生を進化させる先端地域としての大阪湾ベイエリアに期待したい。
 
再生する世界のRustbelt
広域的な視点から様々なロック・インを解除した試みがある。かつて造船業で繁栄したドイツの工業地域Mecklenburg-Vorpommern(北海に臨む旧東ドイツ)は、東西ドイツ統一前には造船業で5万人以上を雇用していたが、現在では5千人と縮小し、失業率も20%におよんでいる。こうした衰退にたいし、地域固有の技術による地域イノベーション創出という地域産業政策のもと、多様な地域主体が強力に連携することで再生に一歩踏み出している
(R.Hassink 2005 European PlanningStudies)。
1980年代以降、世界のRustbeltでは多くの再生事例が見られる。最も先行した英国では、エンタープライズ・ゾーンなど市場重視型制度を駆使したLondon Docklandsに象徴されるが、その後「社会的企業」などを核とする CED(Community Economic Development)型アプローチへとシフトしながら全英での都市再生を継続している。環境再生から市場メカニズムの創出を目論んだドイツIBA EmshireParkは、小さな実験的萌芽を連鎖させることによる再生への相乗効果を創出したといってよい。
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(2008年冬号)



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