一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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広報誌『O-BAY』
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エコを社会に経済に
資源循環が明日をつくる
Interview 盛岡 通さん
(大阪大学大学院教授)

千地万造さん◆もりおか とおる
1946年生まれ。1969年京都大学工学部卒業、1974年京都大学大学院博士課程修了。大阪大学工学部環境工学科助手、助教授を経て、1993年から教授。工学博士。専門:環境工学、環境システム、環境計画。著書:『産業社会は廃棄物ゼロをめざす(編著)』『環境システム(共著)』『リスク学事典(編集代表)』ほか。

 平成15年4月。兵庫県が全国で18番目のエコタウンに承認された。北九州市・川崎市など4自治体が平成9年に承認されてから実に6年を経過してやっと、大阪湾ベイエリア地域初の承認である。
  近畿に暮らす人たちのなかには、身近に承認例がなかったため、「エコタウンとは何ぞや」と疑問をお持ちの方も少なくないだろう。
  エコタウン事業とはどんな事業か。エコタウンが実現をめざす資源循環型社会とはどんな社会か。産業や暮らしの将来像。そして、兵庫県だけでなく、大阪湾ベイエリア地域において、どのような取り組みが必要となるのかを、環境工学を専門とされる盛岡先生にうかがった。
 
なぜ資源循環型社会か
 わが国のエコタウン事業は、資源循環型社会を実現するための、インフラづくり、受け皿づくりのために進められています。そこでまず、なぜ資源循環が必要かについてお話しましょう。
  第1の理由は、地球上の資源が有限だということです。私たちは、石油をはじめとして様々な資源を、地下深くから掘り出して使っています。しかし、希少な物質の中には、あと50年も、もたないといわれているものがあります※1。
  「石油が枯渇する」、「あと200年」と言われ続けて、50年たっても、まだ、あと200年と言われるものだから、あまり危機感を持たない人もいるかもしれません。しかしこれは、昔よりコストをかけて油田を開発しているだけで、無限にコストをかけることは不可能です。いずれ必ず、目に見えて欠乏する物質が出てきます。そうなる前に、我々の文明を、地下の資源に頼るシステムから、モノを使いまわす資源循環システムに変える必要があるのです。
  資源循環が必要な第2の理由は、もちろん環境問題です。二酸化炭素の増加やダイオキシンなどの問題がその典型例ですね。ダイオキシンは廃棄物を燃やした結果として発生します。私たちは、廃棄物を処理するとき、衛生などを考えると燃やすのが一番と考えていました。燃やすと目の前から消えるので、問題が解決したように見えますしね。しかし、地球的スケールでみると別の場所にしわ寄せが行っていた。それが二酸化炭素による地球温暖化であり、化学物質による健康への影響なのです。このような環境汚染を回避するためにも、物をうまく使いまわす必要があります。
  近年、IT技術が進み、社会や産業の形を大きく変えました。ITはいわば都市の神経系。しかし、私たちが生きるには神経系だけでなく、消化器系や循環器系が必要なように、私たちの社会には、モノを循環させる「ライフサイクル・マネジメント」のシステムが必要なのです。この10年くらいで、やっと、そういう機運が生まれてきましたね。
 
海外のエコタウン事例
 資源循環を地域にうまく導入したエコタウンの先駆例として、デンマークのカルンボーという町が有名です。
  カルンボーでは30年前から産業と環境の調和に取り組み、化学やセメントなどの工場や、発電所などからでる廃棄物を、廃棄物として処理するのではなく、原料として利用する仕組みを実現しました。各工場の入口(原料)と出口(廃棄物)を整理して、全体をひとつの生態系のようにつなぐシステムをつくったのです。循環が繋がらないところがあれば、それを埋める分野の産業を誘致しました。資源循環によって成長する複合産業団地です。その結果、化学薬品をつくる工場の廃液を肥料にしたり、工場廃液からから熱を取り出して地域の暖房に使ったり、温排水を養魚場に使ったりというように、工場同士だけでなく工場と地域も結び付け、物質やエネルギーを地域全体で無駄なく使う仕組みができています。
  世界に先駆けたこの取り組みを、人口2万人ほどの小さな町で、住民と自治体と大企業が協力して成功させたことでカルンボーは有名になりました。
  もうひとつ、アメリカ合衆国で、民主党大統領の時代に、エコインダストリアルパークという試みがあり、全米で10ヵ所ほどがモデル地区に指定されました。ここでも、資源循環のレベルを上げる様々な取り組みが行われています。
  これらの取り組みの特徴は、成果が直接、経済に連動する仕組みです。環境に負荷を与えるとその度合いによって税金が増え、逆に、環境への配慮や地域の雇用に貢献すればするほど助成額が増えるのです。環境と経済の連動システムというのは、取り組みを加速させる非常に良い仕掛けになります。最近の日本では経済と環境の好循環と表現されています。
  日本のエコタウン事業も、カルンボーやアメリカのエコインダストリアルパークなど、海外の先進事例を参考にしながら進められています。

※1 地殻中に含まれる元素の割合(クラーク数)の例。単位はppm。
水銀0.2/カドミウム0.5/ヒ素5/鉛15/亜鉛40/銅100/ クロム200/フッ素300/マンガン900/鉄47,000

 
日本のエコタウン

 経済産業省と環境省の共管である日本のエコタウン事業は、平成9年からこれまでに全国で23ヵ所が承認されました。指定地域で取り組むべきことが決められているわけではありません。家電リサイクル工場をつくってもいいし、プラスチックの再資源化でも、バイオマスでも、ペットボトルのリサイクル工場でもいい。
  地域の特性や産業を生かして、地域が知恵を出して独自のエコタウンをつくっていく。そのためのインフラづくり、受け皿づくりをしましょうというのが、この事業の趣旨です。
  ですから、北九州や川崎など、素材産業の集積があって再資源化事業に取り組みやすい地域だけでなく、水俣市のように、過去のつらい経験をバネに環境共生のまちづくりをすすめ、地域のイメージを変えていく取り組みや、富山のようにバイオマス利用に特化した試みなどが出てきています。
  このエコタウン事業、昨年くらいで第1ステージが終わったと思います。これまでは、先駆的な取り組みが多く補助率も高かったけれど、全国で23ヵ所にもなると新しい技術はあまり出てきません。これからは、第1ステージの成果を普及させたり、明らかになった課題を解決する段階です。
  たとえば、日本では産業廃棄物と一般廃棄物では取り扱う仕組みが違い、産業主体は前者の資源循環に責任をもってきました。他方で、地域の一般廃棄物は、別枠の巨額の予算でもって処理されています。性状や循環技術からみると似たものも多く、あくまでごみはごみです。「産廃」と「一廃」の区分を取り払い、公平性や透明性が確保され、環境的にみて効率がよければ、一緒にオペレーションすることも必要でしょう。第2ステージでは、このように仕組みの課題にも取り組んで行く必要があります。

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出典:EPOC産業エコロジー部会「第1回循環型社会交流会(平成12年7月)」における千葉商科大学・三橋規宏教授の講演資料から本誌編集事務局が作成

 
ひょうごエコタウンの概要
 平成15年に、近畿では初めて、兵庫県がエコタウンとして承認されました。大阪でも準備が進んでいましたが、兵庫のほうが一足はやい結果になりましたね。
  兵庫県も、北九州市や川崎市と同じように素材産業の集積を生かしたエコタウンといえます。兵庫県では、特に西播磨から尼崎までの臨海地域に、生産基地が多く存在していました。姫路市広畑では新日鐵の製鉄所が転炉を使ってスクラップから鋼をつくることを続けていました。神戸製鋼も加古川に製鉄所を持っているし、カネカも企画業務の中心は大阪ですが生産現場は高砂にあります。素材産業が連携するタイプのエコタウンは、近畿では兵庫県にしかできないでしょう。
  なかでも一番大きいのは新日鐵広畑製鉄所を利用した廃タイヤのリサイクル施設「関西タイヤリサイクル(株)」です。タイヤは主にゴムでできていますが、スチールコードが十数%くらい入っています。その鉄は機能的に優れていて、それをリサイクルしたら良質な鋼ができるんです。混ざり物も少なく鉄鉱石から鉄をつくるより、ずっと効率がよい。「製鉄会社がなぜ廃タイヤ?」と疑問を持つかもしれないけれど、廃タイヤは鉄鉱石なんですよ。
  ゴムの耐久性を高めるための亜鉛も数パーセントほど含まれていますが、これは亜鉛鉱石より含有率が高いのです。
  さらに言うと、鉄鉱石から鉄を取り出すために、今までコークスを使っていましたが、ゴムは炭素の塊だから、コークスの代わりに使えます。こうなると、廃タイヤが貴重な資源だとわかっていただけるでしょう。今、広畑には全国から年間12万トンのタイヤが集まっています。それだけボリュームがあると、より効率的にリサイクルができるのです。
 
資源循環技術の可能性
 廃棄物を燃やして処理するというのは、酸素のある状態で高温で燃やすことを意味します。もともと日本は木炭をつくるときのように蒸し焼き技術が源流なのですが、酸素で燃やしたほうが高温になるので20世紀の半ばから、それが主流になっていました。酸化状態で燃やすと、炭素と酸素がくっついて、悪くすると塩素化合物が媒介してダイオキシンができます。逆に、酸素のない還元状態で蒸し焼きにすると、炭素と水素がくっつきます。何ができると思いますか。メタン、エチレン、アルコール・・・・・・。燃料や化成品の原料ができます。これまで、石油からつくっていたものを、太陽の恵みで得られる木質などバイオ素材からつくれるようになるのです。
  そして、製鉄会社は還元状態で燃やす技術を持っている。新日鐵の技術を使えば、タイヤをコークスの変わりに使うだけじゃなく、メタンとして利用したり、水素を取り出して燃料自動車に使うこともできるのです。先の亜鉛が回収できたのも還元状態だからできることなのです。廃棄物処理が、最先端の産業になってくるのです。
  資源循環をより進めるためには、廃棄物から付加価値の高いものを取り出すことが重要です。ただし、いくら付加価値が高くても、100gの中に1gとか0.1gしか含まれないものを取り出して、あとの残りは使えないというのでは資源循環とはいえません。化学反応、生物反応、様々な技術を使い、物質として利用したり、熱として利用したり、あわせ技でトータルの付加価値を高めるのが重要でしょう。
 
21世紀の産業革命
  兵庫県に先を越されてしまいましたが、大阪府も第2フェイズのエコタウンの申請をするべく構想をつくっています。実は、家電リサイクル法が施行されたとき、関西の企業が、兵庫県に2ヵ所、大阪府に1ヵ所、リサイクル施設をつくりました。もちろん、今も稼動している重要な資源循環施設です。北九州市では家電リサイクル法とエコタウン指定の時期がピタッとあって、エコタウンに家電処理施設が立地しましたが、関西の場合、リサイクル施設が先行したためにエコタウン候補の臨海部に立地しなかった。家電リサイクルで出てくるプラスチックやミックスドメタルを処理する施設が近くにあると、コストが抑えられて有利なのですが、関西の場合、輸送が必要となってしまったのは残念ですね。
  西に目を向ければ、山陽新幹線沿いに、たくさんのエコタウン指定地域があるのに、関西でエコタウン承認が遅くなった背景には、関西の人たちに、「資源循環産業は主流ではない」という思いがあったのではないかなと思います。
  関西は日本第二の経済圏であり、家電を筆頭に強い産業を持っています。オール関西で力を入れている産業に比べて、廃棄物を扱うことにネガティブなイメージを持ったのかもしれません。しかし、資源循環は、今後、必ず重要な戦略産業になっていきます。
  各種のリサイクル法が施行され、もうすでに、日本1億3千万人分の廃棄物の処理は目処が立ったと言う人がいます。今はまだ形が見えなくても、土地や資本の手当ては終わっており、それらの施設が本格稼動したら国内では廃棄物の取り合いになるかもしれません。今後は、せっかく開発した技術を国内で使うだけではもったいないし、設計や装置に関わる企業は一度だけでは利益が出ないので、中国をはじめ、アジア諸国に技術と装置を輸出しようということになるでしょう。中国も7ヵ所の資源循環拠点をつくるという国家戦略を出したところですし、多くの日本企業が狙っています。中国でモノをつくり、モノやサービスを売るだけでなく、廃棄物関連についても技術移転をしながら親密な関係をつくっていこうとしています。
  日本の技術で処理したほうが、より付加価値の高い資源化ができるのなら、中国から循環資源を輸入することもありうるでしょう。逆に、日本より中国で処理するほうがよいモノもあるでしょう。廃棄物を軸にした、地域間連携が広がっていくことになります。情報だけでなく、実際にモノが動く交流は強固です。循環資源とみなして流通させる手順を合意することで、廃棄物越境を規制するバーゼル条約を超えるルールをもつアジア自由貿易ゾーンを設立することも課題になるでしょう。

image 今、神戸で中古車のオークションをやっていますね。建設機械の中古市場もあります。モノの取引があれば、その後、実際にモノが動き、さらに部品の補充やメンテナンスのネットワークが生まれます。レンタルやリースを含めて製品サービスを主体とした経済が拡大します。中古の場合、部品の補充が重要になるので、たとえばコマツの建設機械が中古としてたくさん輸出されれば、部品供給の関係でコマツが好まれることになります。いったんデファクトスタンダードができると、強いつながりが生まれるのです。
  あらゆる使用済み製品の資源化はこのようなプロダクトチェーンのコアであり、この流れを押さえることで、上流も押さえられてしまう可能性があります。
  これまでの産業が、製造(動脈)が90で再生・処理(静脈)が10だったとすると、これからは、製造が3分の1、メンテナンスや中古市場など使いまわすサービスが3分の1、再資源化が3分の1くらいの産業構造になっていくと思いますよ。
  これは、いわば、現代の産業革命なのです。廃棄物から高付加価値の物質を取り出すことができることを見ても、再資源化のため国境を越えた地域間連携が構築されることを考えても、これからは、ライフサイクルマネジメントをやった企業や地域が優位に立つ時代になるのです。

 
ベイエリアで環境調和

 産業だけでなく地域社会を含めた環境調和型まちづくりを考えるとき、まず必要なのは、そのテーマだと思います。資源循環や自然との共生もあるし、環境教育を通して地域を活性化するという切り口もあるでしょう。もちろん環境だけを考えて都市が成立しているわけではないですから、高齢者福祉など他の課題と対立してはだめです。環境に配慮することを通して、本来のまちづくりが進んでいく形がベストだと思います。その中心に、環境的にも経済的にも社会的にも持続可能な社会があるのはおおかたの人が一致しています。
  資源循環への取り組みは単独では進みません。作る人、運ぶ人、使う人、処理する人がみんな集まって、自治体、地域住民も関わって、多くの人が協力しなければ進まないという性格のものですね。こういう参画型の取り組みは、福祉のまちづくりなどにも共通しますよね。
  ベイエリアで環境共生を考えるときも、ビジョンを高らかに掲げる必要があると思います。ビジョンがないと人に夢を与えられません。
  大阪湾ベイエリア開発整備のグランドデザインを策定して13年、ベイ法ができて12年が経ちますね。最初のグランドデザイン策定には私も関わりましたが、当時はまだ、経済団体が環境保全の問題を掲げることが珍しかったし、市民団体の中には「表向きだけ環境を掲げているだけに違いない」という声もありました。
  しかし、この13年間の間に、環境を良くしていくことが、地域や産業の活性化や都市の格をあげることに繋がっていくという認識に着実に変わってきています。この広報誌もトーンが変わってきましたね。プロジェクト主体の開発主義より、それぞれの試みをネットワークし、繋げていくプラットフォームとしての役割が前面に出ている感じがします。
  ベイエリアで資源循環型のまちづくりを進めるうえで、ベイエリア開発推進機構には、プラットフォームとしての役割を期待しています。関西には環境に関して国際的な活動を行う団体がいくつもあります。地球環境関西フォーラムなどと協力して、ベイエリアの環境に関わる取り組みや、NPOの情報を集め、ネットワークして、環境共生型まちづくりを進める担い手になって欲しいですね。
  資源循環の取り組みが単なる廃棄物処理でなく新しい産業の形であるように、環境共生型まちづくりの取り組みが、ベイエリア地域の産業面の活性化にも繋がっていくと思いますよ。


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英文パンフ作成情報
IMAGE この度、外国企業の誘致を目的として、国土交通省、大阪府、兵庫県、和歌山県、大阪市、神戸市の協力のもと、大阪湾ベイエリアに関する英文パンフレットを作成いたしました。地域の特性、大阪湾臨海地域開発整備法で承認された開発地区の紹介などを中心に掲載しております。海外へのミッションの際などにご活用していただければと考えております。ご希望の方は事務局までお知らせください。

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